
温泉権
温泉の所有権は、どのように決まっているのでしょうか。
まず考えられるのは、その土地の所有者です。
では温泉を発見した人と、土地の所有者が別の場合はどうでしょうか。
この場合、温泉を発見しただけでは温泉の所有権を得るのは難しいと言えます。
また近年は掘削技術が進歩していますが、掘削者が土地の所有者に許可を得て掘削し、
運よく温泉基準を満たす水脈を掘り当てた場合にはどうなるでしょうか。
この場合、温泉の利用権は、土地所有者ではなく掘削者にあります。
日本では、土地の所有権と温泉の所有権は別であるとみなされ、
源泉の掘削権がある人が温泉の所有者とされます。
しかし温泉は、水脈が当たれば終わりというものではありません。
温泉が見つかった場所に利用者が喜ぶような施設をつくり、
たくさんの人に利用してもらわなければ採算が取れません。
さらに、温泉施設の周囲の環境も大切です。
そのため、土地の所有者が別にいる場合は、
土地所有者に加えて付近に住む住民にも理解を得て、
温泉地としての環境を一緒に築いていかなければならないのです。
そういう意味において、
掘削権を持つ人が温泉の利用権を持っていたとしても、
温泉をたった一人で運営することは不可能で、
温泉は地域のものとみなしてみんなで適切に利用活用することが、必要不可欠であると言えます。
宇奈月温泉訴訟
日本では温泉の所有権に関する有名な訴訟が、戦前にありました。
富山県にある宇奈月(うなづき)温泉では、
7.5km先にある黒薙(くろなぎ)温泉から
引湯管を利用して温泉を引いていたのですが、
引湯管が通る土地のほんの一部に、
土地所有者と借用契約がないところがありました。
そこで土地所有者は、宇奈月温泉の所有者に、引湯菅の撤去または、
法外な値段での土地の買取を求めました。
それを宇奈月温泉の所有者が承諾しなかったため、訴訟に至ったのです。
結局この訴訟の決着は、土地所有者の敗訴で決着がつきました。
判決理由は、土地所有者の「所有権の濫用」でした。
実はその土地は有効利用が難しい急傾斜地にあり、何ら価値を生み出さない土地。
それに対し、宇奈月温泉の引湯菅を撤去することは、
宇奈月温泉と周辺の住民に甚大な損害を与えることになると判断されたためです。
温泉環境権
宇奈月温泉訴訟の判決は、
温泉が公共の利益になると認められた結果です。
しかしその反対に、
温泉が地域に損害を与えることがあってはいけません。
例えば、温泉の排水処理には十分に配慮し、
地域の環境を汚すようなことがないようにしなければならないでしょう。
そのため、温泉がある地域には、
温泉水を中和処理する施設がつくられることもあります。

逆に、温泉が公共の利益であるならば、
周辺の環境が温泉に悪影響を与えることも避けなければなりません。
例えば、工事開発や地下水の汲み上げなどで、温泉の湧出量や泉質が変化したり、
新たに建てられる建物によって温泉の日照が遮られれたりすることなどです。
こんな事例もありました。
地熱発電所が建てられ発電を開始してから、
その周辺の温泉の湧出量や泉質に影響が見られたことがあったのです。
このときは、地熱発電所の経営者が発電施設の改善をするなどして対応し、
泉質は少しずつ改善したとのこのことです(※)。
このような、周辺環境から温泉を守ることができる権利を、
「温泉環境権」と言います。
(※)このときの温泉の変化は、
地熱発電所が原因かどうかははっきりとはわかっていません。
自然の変化はさまざまな要因が合わさって起こるもので、
特定することが難しいためです。
地球の周期的な変化である可能性もあります。
以上、温泉権と温泉環境権について解説しました。
温泉は地域みんなのものであり、
社会に根づいて利益と環境を共に守っていくべきことがわかりましたね。
Lesson6では、温泉にまつわる法律についても学びました。
温泉法ができて温泉の定義がなされることで
温泉の所有者も利用者も守られてきました。
また時代の流れに沿って温泉法が徐々に改善されていることは評価できる点ですが、
まだまだ曖昧な点や改善が必要なこともあるようです。
次のレッスンからは「温泉の入り方」について学習を進めましょう。